大阪市住吉区長居藤田鍼灸整骨院
長胸神経麻痺:腕が上がらない、肩甲骨部の脱力感や鈍痛、肩甲骨が浮き上がる、翼状肩甲など
長胸神経とは
首の第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経が叢(くさむら)のように複雑に交叉している部分を腕神経叢と呼びます。
長胸神経は、その腕神経叢の中の第5頚神経(C5)、第6頚神経(C6) 、第7頚神経(C7)の枝から構成される神経です。(第4頚神経が長胸神経に含まれる方もいます)
腕神経叢から枝分かれし構成された長胸神経は鎖骨の内側1/3辺りの下を通って胸の側面を下行し、前鋸筋といわれる筋肉を支配しています。
この前鋸筋は、肋骨の前側面から肩甲骨に付いている筋肉で、肩甲骨を体幹に引き寄せて安定させる働きをします。
長胸神経麻痺とは
長胸神経は中斜角筋を貫通し、浅い位置を走行するといった特徴があるため、引き伸ばす力や圧迫などの外力によって障害を受けやすくなっています。
そして何らかの原因により長胸神経が障害されることで前鋸筋の麻痺や、肩甲骨周りの痛みや違和感、腕の挙上困難などを訴える疾患です。中でも前鋸筋の麻痺により肩甲骨が天使の羽根のように浮き上がってしまう翼状肩甲は特徴的な症状です。
また、長胸神経が障害を受けやすい場所としては、中斜角筋貫通部、肋鎖間隙の通過部、第2肋骨の外側縁部などがあります。
(長胸神経を構成するC5~C7頚神経の枝のうちC5とC6の枝は中斜角筋を貫通することが多く、特にC5の枝は60%も貫通しているとの報告があります。一方C7の枝が貫通することはないようです)
障害を受ける原因としては
・神経の通り道がリュックサックの紐などで圧迫を受けた時
・テニスのサーブやゴルフのクラブスイングのようなスポーツによる神経の引っ張り
・転倒した際に、腕を広げた状態で脇を強打する
・産褥期に腕を上げたまま横向きで新生児との添い寝をしたときに伸張されるなどです。
長胸神経麻痺になると
初期のころは、肩甲骨周囲の脱力感や鈍痛を感じるようになります。
徐々に腕を前から上に挙げるときに力が入りにくくなり、肩甲骨の内側が浮くようになってきます。
これが長胸神経に支配されている前鋸筋が機能不全を起こす翼状肩甲という状態です。
重症例では、腕を上げる動きが出来なくなってしまうこともあります。
ただし、翼状肩甲は肩甲骨の固定性が落ちているための症状ですから、僧帽筋の麻痺などによっても引き起こされるので鑑別が必要です。
長胸神経麻痺を回復させるには
基本は患部にかかる負担や原因を取り除いて経過を見ていきます。
完全に切れてしまっているなど、よほどの重度損傷でない限り神経麻痺は回復することが多いです。
しかし、回復には個人差があり、すぐに回復する場合もあれば回復までに1年以上時間を要する場合もあります。
その間は、肩甲骨や肩周りの筋力強化などを行いながら根気よく待ちます。
長胸神経麻痺は、肩を動かしにくい、腕を上げにくい、肩甲骨が浮き出てきたなどを感じる場合に疑うべき疾患の一つになります。
はっきりした原因があるときもあれば、これといった原因がはっきりしない場合もありますが、お心当たりのある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
参考文献
船橋 明男『リュックザック麻痺の起因に関する研究』体力科学,第34巻1号,11-26,(1985)
五十嵐 絵美・浜田 純一郎・秋田 恵一・魚水 麻里『前鋸筋の機能解剖学的研究』第42回日本理学療法学術大会抄録集,Vol.34.(2006)